「卍」




卍 (1964年 大映 監督:増村保造 主演:若尾文子岸田今日子川津祐介船越英二 他)
痴人の愛」に続いて観たのがこの「卍」。「痴人の愛」と同じく谷崎潤一郎原作、増村保造監督、テーマも同性愛を含む四角関係というタイトル通り卍巴のドロドロしたもの。人妻である岸田今日子演じる園子が美術学校で知り合った光子、若尾文子と出会い、同性愛に。それだけでもなかなかの展開ですが、そこに河津祐介演じる光子の婚約者が絡み、最終的には堅物と思われた園子の夫、船越英二演じる剛まで光子にハマリ、最後は欲望にとりつかれた光子、剛が光子に服従していき・・・という話。この映画を見ながら気づいたのですが、痴人の愛と同様に、展開が早い。登場人物が心惹かれ、欲望に飲み込まれていくまでの過程がテンポよく進む感じがしました。しかも決して物足りないわけではないのです。これは増村保造監督の特徴かもしれません。そしてこの映画で惹きつけられたのは、やはり光子を演じる若尾文子の魅力。小悪魔のような役柄という事もありますが、愛らしさと色気があり、とても魅力的です。すっかりファンになりました。そして物語としては背徳的であり、岸田今日子が演じる園子は辛い結末なのに、コミカルというのは言い過ぎかも知れませんが、何となく重くなり過ぎない感じがするのは、岸田今日子のキャラクターというか、魅力だと思います。こまかい事を言うと、園子が語りかける作家の正体、園子と園子の夫である剛を翻弄した光子の真意、なぜ関西弁なのかなど、よくわからないところがありますし、ツッコミたくなるところはあります。ただ、そんな事は敢えて気にしません。この映画で描きたかったのは、欲望にとりつかれた人間の姿、あきらかに異常であり狂気を感じる行き過ぎた姿なのに、それは好きという感情、人間の純粋な感情が過剰になった結果である事。そして誰でもその一線を超える可能性がある事。そのあたりだと感じました。そしてそれは僕も含めて大抵の人は理解している事で、だからこそ観ていて引き込まれるし、嫌悪感が湧いてこない、むしろ共感に近い感情が湧いてくるのではないだろうか。このあたりは「痴人の愛」にも共通するところだと思います。う〜ん、谷崎文学と増村保造監督、そして若尾文子。しばらくハマりそうです。