電話


夕方から夜にかけて知らない電話番号から何度も着信があった。また何かのセールスかな、と思って無視していた。
仕事から帰った時、兄貴から電話がかかってきた。出てみたら高校生の甥っ子だった。
兄貴には2人の息子がいて、長男は社会人、次男は高校1年生。
兄貴と僕は仲が良い方だけど、両親が亡くなってから特に用もなく、年に数回連絡を取り合うくらいだった。
甥っ子2人とも会う機会が減って、たまに会った時にはいつも成長の速さに驚く。


「久しぶり!元気にしているか?」
「うん。知らない電話番号の着信あったよね?あれ僕。」
「おう、そうか、どうした?」
レスポールの弦が切れちゃって、どうしていいかわからないので、直して欲しいと思って。」


そういえば、国産のレスポールのコピーモデルを何年か前にあげた事を思い出した。
高校生の時にバイトして買った当時のお気に入りのギターだった。思い入れがあったので手放さずに持っていたけど、ギターを弾きたいと言った甥っ子にあげた。そういえば友達の子供がまだ小学校低学年の頃、僕の部屋でダンエレクトロのギターを見て気に入ってしまい、そのままプレゼントした。自分でも不思議だけど、子供にギターが欲しいなんて言われるとグッときてしまう。だって、僕も小さい頃、ギターが欲しくて欲しくてたまらなかったから。その時に貰ったギターは今も大切に持っていて僕の宝物の一つになっている。
しかし、甥っ子が「ギター」じゃなくて「レスポール」と言っているのが何だか嬉しかったりして。


「弦くらい交換しろよなあ〜、でも、ギターあげたのだいぶ前だけど、ちゃんと弾いているのか?」
「弦が切れてからは飾ってるよ」
「じゃあ、また弾きたくなったのか?」
「うん」
「わかった、近いうちに弦替えに行ってやるわ」
「やったあ、ありがとう!」


久しぶりに甥っ子と話しができて嬉しかった。


先日、久しぶりに兄貴に電話したら、「そういえば9月に離婚したわ」とサラっと報告があった。
これまでのいろんな事、いろんな思いがグルグル頭の中を回って、そんな事ならもっと早く・・・と言いそうになってやめた。
もう全部過去だし、既に新しい生活が始まっているし、いきさつはどうでもいい気がした。
兄貴はたった一人の兄弟で、うちの両親はもういないし、奥さんと別れたら向こうの親戚づきあいも無くなるだろうし、これからはもう少し仲良くやろうと思う。
今は兄貴と息子、3人で暮らしているらしい。甥っ子はヤンチャな感じだし、大きくなったとは言え、まだ高校1年生。
やっぱりキツイと思う。


ギターが弾きたいなら自分で調べて何とかするわけで、まあ、それほどギターに熱は無いのかなあと思ったりして。
もしかして、会いたいと思ってくれたのかな。
だったら嬉しいな。
それか、本当にギターが弾きたくなったのかな。
それも嬉しいな。
まあ、どちらでもいい。
ギターの弦を張替えに行くのが楽しみだなあ。