どぶ



どぶ(1954年 新東宝近代映画協会)監督 新藤兼人 出演 乙羽信子宇野重吉殿山泰司山村聡 他)
愛妻物語にグッときて、新藤監督、乙羽信子宇野重吉という同じ監督、同じ俳優による作品である、これを続けて観ました。が、愛妻物語とは全く事なる作風で、特に知恵遅れの女性、主役であるツルを演じる乙羽信子の演技には衝撃を受けました。これが愛妻物語で健気に旦那の成功を支える妻を演じた人とは思えないような、振り幅の大きさ。役者魂を感じました。正直、強烈過ぎて辛いところもありますが、話が進むうちに愛らしく感じ、最後の場面ではその健気な愛情に胸が熱くなりました。戦後の復興の中で乗り遅れた人たち、ルンペンの部落の生活や人間模様が描かれているのですが、新藤監督が自ら実際の部落を取材した事もあり、そこにいる人々の力強さや逞しさをリアルに感じました。知恵遅れのツルの生涯は何だったのか、人は何のために生まれてきたのか、生きる意味は、幸せとは何か、上手く言えないけれど答えが出せなくなってしまう、わからなくなってしまう。それが新藤監督が伝えたかった事なのか、それもわからないけど、描きたい、伝えたいという熱を感じる映画。しかし、乙羽信子という女優はすごいなあ。